Soul of Weed

好きなこと 好きなもの 徒然と

窓辺にて

映画の内容を初めて知ったとき、きっと好きな映画だろうなと思った。

映画を知ることが出来たきっかけは吾郎さんだったけれど、もし吾郎さんが出ていなくても観に行きたいと思っただろうと言うテーマだった。〈好きという感情そのもの〉について、私も知りたかった。

 

予告編が公開されて、たった60秒の中で3つも心に刺さる台詞があった。

「私のこと、好きだった時あった?」

「正直であることは必ず誰かを傷つける」

「自分のそういう感情の乏しさがたまに怖くなるんです」

どの台詞も、知っている感情だなと思った。自分も一度は考えたことのある感情だった。

1つ目の台詞に関しては、自分について自信がない私にとっては常について回る感情の1つで。私が友人だと思っている人は果たして、私のことを友人だと思ってくれているのか。とか悩み始めると出口のないトンネルに入ってしまうもので。相手があるもの、家族だろうと友人だろうと所詮他人に過ぎないのだと言い聞かせてみたり。自分に向けられる感情はいまいちわからないものだなと思う。

2つ目の台詞、必ず誰かを傷つけるとまで思ったことはないけれど。私が正直に突き進むことで、きっと傷つけてしまうような気がして、嘘をついたことは何度もあるなと思った。それが正しかったかどうかは分からないけれど。正直であることが必ずしも正解ではないことを成長とともに知った気がする。

3つ目の台詞に関しては、私は人に対して好きという感情を人並みに持てていない自覚があって。周囲の人との温度差に自分自身で引いてしまうときさえある。かと言って、人が嫌いな訳では無いし、人に嫌われるのは怖いと言う感情も持ち合わせていて。身勝手だなとは思うけれど、それなりに上手くやっていきたい思いはあって。何というか、LikeであってLoveではない感情しか持ち合わせていないような気がするのです。

26歳になると割と結婚している子も増えてきて、友達との会話にもそういう話が出てきたりして。周りの子が結婚に対して焦っているのを見て、私は自分の感情の希薄さに対して焦るようになって。まだ、付き合うということさえ知らないのに。ものすごく遅れてるんだろうなとは思っていても、持てない感情を持っているかのように偽って誰かの横に立つのは間違っているような気がして。きっと罪悪感で押しつぶされてしまうだろうなと思えて。どうしたら良いのかわからない感情でいっぱいで、少し息苦しくて。

 

だから、恋愛をテーマにしたものが嫌いだった。自分の欠如を指摘されているような気がして苦手だった。観ないと言う選択をすることで不安に蓋をしていた。

もし「〈等身大の恋愛模様〉」と書かれているだけだったら絶対に観に行こうとは思わなかっただろうと思う。きっと、予告編すら見なかった。

でも、「〈好きという感情そのもの〉について深く掘り下げた」って言葉にものすごく惹かれて、観たいと思った。きっと好きになれるだろうと思った。私の迷子になっている感情について教えてもらいたかった。

 

 

 

映画を観て、一番の感想は

余白があって優しい温度の映画だなと言うこと。

例えば、茂巳さんの実の両親はどうされているのかなとか、紗衣さんはハルさんにどう伝えて、ハルさんはどんな言葉をかけたのかなとか、留亜ちゃんは誰と暮らしているのかなとか。茂巳さんとマサさんはどうやって友人になったのだろうかとか。映画冒頭の留亜ちゃんの言葉「全てを書きますかね?」の真骨頂の表現だなと思う。観た人が各々に想像ができる余白。登場する人の背景を描き切らない優しさ。観た人が自身を誰かしらに投影できるような余白。他にも不倫を描くにしても、情事前後の描写に留まっていて直接的な表現がされていないことが心地良かった。

答えが一つじゃないよと教えてくれるのも。

ハルさんの言う「忙しいことは何よりの幸せ」に相反するカワナベさんの労働に対する思い。話し合って、向き合って別れを決めた夫婦。一方で、全ては話さずともこれからも共に生活をしていくことを決めた夫婦。どれも正解なんだよって言ってくれているような気がした。

 

それから、心に刺さる台詞が本編には数え切れないほど沢山あった。

ニュアンスにはなってしまうけれど、「どんな選択をしても後悔はする」とか「お酒を呑めないやつは面白くない、とか言うやつがいるから僕はここにいるんです」とか「生きていて誰かの役にたてているんだろうか」とか他にもいっぱい。今まで生きていて、不意に感じたことのある思いを改めて認識させてくれる感じ。上手く表現できなかった感情を言葉にしてくれたような感覚。

たまにあるスクリーンの向こう側の物語じゃなくて、きちんとこちら側に降りてきてくれた物語。主軸のストーリーのために周囲の人の感情を置き去りにした突飛なストーリーじゃなくて、主人公も周囲の人もみんなの感情を無下にせずゆっくりきちんと回収して、観ている側の感情も追いつかせてくれるような。今も何処かで茂巳さん達は生きているんだろうなと思わせてくれる物語だと思った。嫌なやつがいない、ただ不器用でいじらしい人達の物語。

 

茂巳さんは、自身のことを感情が乏しいと表現していたけれど私はそうは思わなかった。ちゃんと慈愛のある人だと思った。ハルさんを訪ねるとき、留亜ちゃんと話していたある種"パフェ"なチーズケーキを持って行ってたり、ハルさんを撮った写真が温かかったり、紗衣さんのためにどうするのが正解なのかと悩んだり。そして、何より紗衣さんに対してちゃんと怒っているじゃないと。少し自分に対して自信がないだけで、自分の持っている愛情に気づけていないだけでちゃんと紗衣さんのことが好きだし、大切にしてるよなと感じた。だからこそ、愛の尺度を他人と比べる必要なんてないよなと彼を見ていると思うことができた。私には、好きを超えた何かを感じることが出来た。隣りにいたらもどかしいのかもなとも思うけれど。留亜ちゃんとホテルで過ごした翌朝、シャワーを浴びるとき布団に潜っていてと言われて素直に潜っているところとか、タクシー運転手のたっちゃんに感化されてパチンコに行って、ビギナーズラックに当たって驚いているところとか年上の男性に対する表現ではないけれど微笑ましいなと思った。「期待とか理解って時に残酷だから」という言葉も茂巳さんが誠実だからこそできる考え方なのだろうと思う。素直で不器用で誠実で、とても魅力的な人です。

紗衣さんは、本当はちゃんと茂巳さんの愛に気づいてたんじゃないかなと思う。でも、言葉にしてほしいときってあるんだよなと。頭でわかっていても、心が納得できないみたいな。だから、きっと最後まで好きだったんですよねとか。茂巳さんと紗衣さんは似ているなと思う。自身に投げかけられた質問に対して「あなたはどう思っているの?」と返すとことか。

留亜ちゃんは、繊細だけど大胆で、高校生らしい素直さが微笑ましかった。親子ほど年の離れた茂巳さんをモデルに会わせてあげるといって振り回してみたり、急にラブホテルに呼び出して相談相手にしてみたり。無邪気だなと思う一方で、時々見せる大人よりよっぽど大人の達観した考え方は育った環境がそうさせるのかなとか、色々と考えさせられる子だなと。理解とか期待についての問いに、信頼と答えを出した留亜ちゃんの考え方が好きです。

留亜ちゃんの彼氏、もとい水木くん。素直でわかりやすい。何だかんだ言っても留亜ちゃんのことを大切に思っているのも伝わるし、茂巳さんを後ろに乗せてバイクで走ってくれたり、ちょっとアマノジャクぽいけれど良い子なんだろう。最後の場面の茂巳さんとのシーン、すごく面白かった。その小説のモデルとも言える人が茂巳さんだとは気づいてないからなんだけれども、本人にサイコパスって言っちゃてるよって笑ってしまった。あと、無限にLemonが流れていた件も可笑しかった。

荒川円さん。彼は、きっと書ける小説家になれるんじゃないかなと思う。紗衣さんを思っていたからと言えど、茂巳さん本人さえ気づいていなかった(あるいは表現してこなかった)小説を書かない理由を見出だせるほどに繊細な人なのだから。そして、自分の中の紗衣さんへの思いを昇華させることが出来たのだろうから。書ける人になっていることを心から願っています。

ゆきのさんは、茂巳さんが家を訪ねて相談していたとき、もちろん茂巳さんに対しても怒っていたのだろうけれど。どちらかといえば隣に座っているマサさんに対して怒っていたのだろうなと。好きだから切り出せない、きっとそういう人って多いと思うのです。自分を選んでもらえないかもしれない怖さ。よそ見をされるということで自信ってなくなってしまう。それでも、マサさんの決断を受け止めて一緒に進んでいくことを決めたゆきのさんは強い人だなと思います。

マサさんは、ずるい人だなと思いました。自分の仕事については真摯な人なのだろうけれど。人としてはいかがなものか。年下の女の子、悩ませてやるなよとか老婆心が出てきてしまう。

藤沢さんも罪悪感とマサさんへの素直な思いの狭間で悩んでて、テレビでは明るいキャラクターを演じて。嘘をつかなきゃいけない辛さだってあるよなと思う。

「悩みのない人なんていないですから」の台詞の通りだなと思う。生きることは悩むことなんだなと。贅沢で良いじゃないか。しんどいけれど、悩むことが生きることなのだとしたら、悩みがあることさえ幸せなのかもしれないなと少しだけ思うことができた。ほんと少しだけ。

登場する人全員、冷たい人が居なくて心地良かった。パチンコで隣りに座ってたお姉さんの真面目さとかタクシー運転手の面白のたっちゃんの三日三晩考えた馬の話とか。好きだなと思う。

 

ストーリーとは別に、光の使い方と音楽の使い方がすごく好きです。ガラスのコップに日光を透かしてできる光の指輪とか。綺麗で優しい光だった。息遣いを感じられる会話のシーンでは音楽が流れないところも好きだった。呼吸音も服のこすれる音も生活することで生まれる音が聞こえてくるのが、すごく好きだった。

 

いっぱい泣いて、いっぱい笑ってすごく充実した気持ちになれました。他にも色々と思ったことがあったのに一度では覚えきれなかった。自分の記憶力が残念。体感時間は短かったけれど、143分のボリュームはちゃんとあったんだなと。

壮大な音楽があるわけでもなく、大きな起承転結があるわけでもなく、ただただ温かな会話劇で。でも、それがすごく居心地の良い映画でした。

 

ただ、私自身の迷子の感情に対する不安は解決はしてくれなかったかな。肯定はしてくれた気がするけれど。だって、茂巳さんはちゃんと愛せる人だったのだもの。でも、分かったこともある。愛情の種類も表現も無限にあるのだろうということ。だから、人と違うからといって焦らなくても良いのかもしれないなと。難しいけれど、もう少しだけ寛容的な考え方で生きられたらなと思います。

 

 

2022年11月6日(日)

ユナイテッドシネマ豊橋18

11スクリーン G-7

11:30〜14:05

 

映画『窓辺にて』公式サイト